毎年、夏が近づくと、私の心には小さな期待が芽生えます。それは、知り合いからお中元として贈られる紀州の南高梅への期待です。この習慣がいつから始まったのか、正確には覚えていません。しかし、今では夏の風物詩として、私の生活に深く根付いています。
最初のころを思い出すと、少し照れくさい気持ちになります。贈り物をいただく際、多くの人がそうするように、私も「申し訳ありません。こんな気を使っていただいて…」と遠慮がちに言っていました。本心では嬉しかったのですが、相手に負担をかけているのではないかという思いから、そう言わざるを得なかったのです。
しかし、年を重ねるごとに、この贈り物が単なる社交辞令ではなく、相手の真摯な気持ちの表れだということに気づきました。そして、私の態度も少しずつ変化していきました。「悪いからいいですよ」と言っていた言葉が、「ありがとうございます。毎年楽しみにしています」という素直な感謝の言葉に変わっていったのです。
人間とは不思議なもので、最初は遠慮していたものが、続けていただくうちに逆に期待するようになってしまいました。6月も半ばを過ぎると、「今年も南高梅が来るだろうか」と、密かに心待ちにするようになったのです。自分でも少し恥ずかしい気持ちになりますが、これが正直な気持ちです。
そして、今年もその日がやってきました。玄関先に置かれた宅配便の箱を見たとき、その大きさと重さから、間違いなく南高梅だとわかりました。箱を開けた瞬間の、あの独特の香りが部屋に広がります。梅の爽やかな酸味と、ほのかな甘みが混ざり合った香りは、まさに夏の到来を告げるものです。
梅干しは、特に夏に重宝します。真夏の暑さが続く時期、体力を消耗しやすく、食欲も落ちがちです。そんなときに、この南高梅が大きな助けとなるのです。確かに、一箱で夏の間ずっと持つほどの量ではありませんが、ちょっと食べたいときに1粒口に入れると、その効果は絶大です。
甘さと酸っぱさのバランスが絶妙で、口の中に広がる味わいは、疲れた体と心を瞬時に元気づけてくれます。塩分補給にもなるので、夏バテ防止にも一役買ってくれます。1粒食べるだけで、また元気に仕事に取り組める気がしてくるのです。
私がいつもいただく梅干しは、河本食品という会社の「南宝梅」という商品です。パッケージを見ると、おそらく600gタイプだと思われます。正確に量ったことはありませんが、手に持った感触からそう推測しています。
箱を開けると、中には見事なまでにぎっしりと梅が詰まっています。2段構造になっており、下の段の梅が潰れないよう、プラスチックの仕切りで保護されているのも嬉しい配慮です。この梱包の丁寧さからも、作り手の梅への愛情が伝わってきます。
梅の色合いは、実際に見るのと写真で見るのとでは少し違って見えることがあります。カメラの性能や光の加減によって、赤みが強く出たり、逆に白っぽく見えたりすることがあります。実際の色は、濃すぎず薄すぎず、ちょうど良い赤みを帯びた美しい色合いです。この色合いを見るだけで、食欲がそそられます。
さて、最も重要な味の部分ですが、この南宝梅は絶品です。ハチミツで甘みをつけているため、一般的な梅干しよりもかなり甘めの味わいです。もちろん、梅本来の酸っぱさもしっかりと感じられますが、どちらかというと、おやつ感覚で楽しめる味わいです。
一粒食べると、まず口の中に広がるのは優しい甘みです。その後、じわじわと梅の酸味が追いかけてきて、最後には塩味がほんのりと顔を出します。この味わいの変化が絶妙で、まさに舌の上で小さな劇場が繰り広げられているような感覚です。
一箱には32粒ほど入っていますが、正直なところ、自制心がなければ3日ほどで一人で食べ切ってしまいそうなほど美味しいのです。それほど魅力的な味わいなのですが、同時に贈り物としての特別感も大切にしたいので、できるだけ長く楽しめるよう、少しずつ味わうようにしています。
この南高梅には、栄養面でも優れた点があります。梅には、疲労回復に効果的なクエン酸が豊富に含まれています。また、食物繊維も豊富で、腸内環境を整えるのに役立ちます。さらに、梅に含まれるポリフェノールには抗酸化作用があり、美容や健康維持にも良いとされています。
こうした栄養面での利点を知ると、単においしいだけでなく、健康にも良い贈り物をいただいているのだと、改めて感謝の気持ちが湧いてきます。
南高梅をいただくたびに、私は紀州の風景を想像します。和歌山県の温暖な気候、豊かな自然、そしてその土地で代々受け継がれてきた梅の栽培技術。これらすべてが一つになって、この美味しい南高梅が生まれるのだと思うと、一粒一粒に込められた物語を感じずにはいられません。
また、この贈り物を通じて、贈り主との絆も深まっていると感じています。毎年変わらずに送ってくださる気持ち、そして私の好みを覚えていてくださる心遣いに、心から感謝しています。ビジネス上の付き合いから始まったことかもしれませんが、今では純粋な友情のようなものを感じています。
しかし、同時に、この贈り物がいつまで続くのかという不安も心の片隅にあります。人生には様々な変化がつきものです。仕事の関係や個人的な事情で、いつかはこの習慣が終わる日が来るかもしれません。そう考えると、今、目の前にあるこの南高梅の一粒一粒が、より一層貴重に感じられます。
だからこそ、今年も送られてきた南高梅を、感謝の気持ちを込めて、大切に味わいたいと思います。朝食のときに1粒、仕事の合間のひと息のときに1粒、夕食後のデザート代わりに1粒。そうして少しずつ、しかし確実に、この夏の贈り物を楽しんでいきたいと思います。
そして、来年の夏がやってきたとき、また新しい南高梅との出会いを楽しみに待ちたいと思います。たとえいつか、この贈り物が途絶えることがあっても、これまでの思い出は私の中で大切な宝物として残り続けることでしょう。
最後に、この南高梅を通じて学んだことがあります。それは、贈り物の真の価値は、その物自体の価値だけでなく、贈る人の気持ちと、受け取る側の感謝の心にあるということです。これからは、私も誰かに何かを贈るときには、この南高梅から学んだ心遣いを忘れずにいたいと思います。
毎年の南高梅は、単なる夏の贈り物以上の意味を持つようになりました。それは夏の訪れを告げるもの、健康を気遣う優しさの表れ、そして何より、人と人とのつながりの象徴となったのです。これからも、この素晴らしい伝統が続くことを心から願っています。