中山道妻籠宿にいくつか宿屋がまだある。
妻籠宿だけではなくそれぞれの宿場にはまだ旅館として経営しているところがある。
そんな妻籠宿のコアな部分つまり寺下(枡形から南)にある松代屋という旅館に泊まった記録を残しておく。
個人的にはあまりにも良すぎて誰かに泊まってほしくないと思う。が誰も泊まらないと廃業になる恐れもあるから繁盛してほしいとも思う。痛し痒し。
ネットで予約のできない宿なのでブロガーの主たる収入源であるアフィリエイトが使えないので多くのサイトでは大々的に紹介していないが損得抜きでここでは大々的に絶賛する。
妻籠宿松代屋
予約
まずネットで予約できるかというと海外ではできるようだが日本国内ではなさそうだった。インターネット大好き人間である自分もできれば電話でなんか話をしたくないのでなんとかあるだろうと予約サイトをさがしまくったがみつからなかったのだ。
それくらいマニアックな旅館だ。
つまり宿泊しようと思ったらGoogle検索で予約サイトを探すのではなく電話番号を調べて電話する必要がある。
そして昼間ならご主人が電話にでるだろう。比較的若めな声色でてっきりお爺さんが経営していると思い込んでいるのが若干イメージと違い戸惑う。
電話して「いついつ泊まりたい」という旨を言うとまず返ってくるのが「部屋の仕切りはふすま一枚ですが大丈夫ですか」www
「えええ?」そうなんですか?
などとここで驚くようでは松代屋に泊まる資格はないので「結構です」といって電話を切ろう。
しかしワシはわかっていた。いやわかっていたのではない。覚悟していたのだ。
「はい大丈夫です」そして次のハードル項目は「お風呂もトイレも部屋にはなく共同ですがよろしいですか?」
「おいおい、思いとどまってほしいのかよ?」と一瞬あたまをよぎったがおそらく行ってからびっくりする客があまりにも多いのでこういうしつこいくらいの確認項目があるのだろう。
「はいはい、大丈夫です」と答えた。
「ではいついつお待ちしております。駐車場は大きい道路沿いの橋のそばにありますがぜんぶ塞がっていたら公共駐車場に無料で停められるよう取り計らいますので言ってください」とか言われた気がする。
ということで当日まで特に確認のメールも確認の電話もくるわけでもなく予約完了だ。文字通り口約束。
チェックイン
場所はGoogleストリートビューで見て知っていたし、なにより座頭市が松代屋の前を杖を突きながら歩いていたのでよくわかる。っていうか妻籠宿行ったことあるし。
とにかくこの妻籠宿のコアな部分、つまり道が舗装もされておらず一見したところ電気も通ってないんじゃないかっていうくらいレトロな街に泊まれるなんて!
街道好きならテンション上がるだろ。
当日5時頃チェックインした。
主が出てきてすぐに部屋に案内してくれた。支配人というか当主が自ら部屋まで案内してくれるなんて!
幸いなことに当日の予約はワシら夫婦を含めて二組だけだそうな。
しかももう一組は外国人らしい。なにやら海外のネットサイトで予約してきたようだ。だが当主は言っていた。
外国の人はけっこう適当なところがありまして平気でドタキャンしてきます。
それはともかく部屋数は8部屋だか9部屋だかあるので2階は我々が泊まり、1階はもう一組が泊まるように計らってくれた。
ついでに全国旅行支援だかなんだかキャンペーンの最中で宿泊費が2割引になったのと、さらに一人あたり1000円分の県内で使えるクーポン券ももらえた。
ちなみに平日前宿泊なら2000円になっていたはず。
部屋
宿帳はさすがに昔風ではなかったが一通りの手続きはフロントではなく自分の部屋でやるというなんとVIP待遇。
その部屋だが食事は食堂という名の別室でいただいた。もしかして部屋で食事をさせないのは匂いが居室に残ることを懸念してのことかもしれない。なるべく食事は決まった場所でしてもらったほうが居室に妙な匂いがつきにくくなるという配慮があるのかもしれない。
食事をしているあいだに部屋に布団が敷かれていた。
あとは寝るだけというのはなにしろ部屋には娯楽と呼べるものがなにもない。テレビはない。電話もない。
部屋に鍵がないし金庫もない。
そういうわけでお一人様で泊まるのはちょっと注意が必要かもしれないがあの当主と話をしたら安心感しか感じないからまず気をつけるとしたら隣の部屋に泊まるかもしれない他人だ。
晩ごはん
こういうお宿なので晩ごはんも期待通りいや期待以上だ。
さすがに食事は食堂に集まって食べるということだった。食堂に集まるといっても客はわれわれだけ(あと一組はドタキャンぽい)なので部屋が変わっただけで個室で食べるという意味では同じ。
しかも当主おんみずからすべて給仕してくれる。いやいや申し訳ない。
給仕してくれるだけでなく料理の説明もいろいろしてくれたし、何しろ当主は気さくなスキンヘッドだ。親近感パねえ。
主に川魚料理になるが今どきのお子さんは嫌がるだろうなという料理ばかりで素晴らしい!
この料理と部屋と風呂トイレ共同というのが今どきのガキとチャラ系を遠ざけてくれていて感謝だ。
▼特にこれ。鯉の胴体輪切りの甘露煮だけど頭部分に近いからとくに厚めに切ってありますだとさ。
真ん中に見える黒い塊はもちろん腸(はらわた)だ。苦いだろうなあと思って食べたらやはり苦かった。あれの味ににている。イカを料理したときに腸だけアルミホイルに乗せてトースターで焼いて醤油をちょっとかけて食べるあれ。
あの苦味と同じ味がした。ほかの部分も含めて美味しかった。
ちなみに数本出ている棒状のものはパスタではないし、ましてやテニスラケットのガットでもない。鯉の骨だ。
魚だけで2種類3品、その他蕎麦、茶碗蒸しなどとあったら他のおかずが少しでも腹一杯になる。大満足だった。
風呂
和室だと普通のホテルでもいつのまにか部屋に布団を敷かれているということは今でもあることだから驚かなかったが、ではあとはほぼ寝るだけだから風呂に入りますか。
幸い二人で泊まったので一人ずつ荷物の番をしながら風呂にはいった。
風呂場は一応男湯と女湯とに分かれているがそれは複数の客が泊まったときの話。今回のように結局一組だけというときは1箇所の風呂場を使ってくださいと言われるだろう。まあ夫婦なんだから別に大丈夫だ。
そして風呂場はというとそこそこ普通だ。なぜなら比較的近年増築して建てたような風呂場だから。
だって昔の旅籠屋って風呂場があったところはそんなになかったはずだ。数軒に一軒みたいな感じであってその風呂のある家に借りに行くというのが昔の日本の風俗としてあたりまえだったらしい。なにかで読んだ。
そんなわけだから風呂場にはあまり宿の外観ほどの風情はないがそれでも一般的なホテルのそれと比べたらレトロ感ぱねえから安心してほしい。
就寝
そして何時に寝てもいいのだが夜は外の音を楽しもう。
季節によるだろうが外には蛙や数多の虫の音で満ちている。自動車の走る音は一切聞こえない。
本当に21世紀の令和の時代なのだろうかということなど考えなかったが日本にはまだまだこういうところがあるのかと考えると嬉しくなった。まさにクールジャパン。
早朝
じじいになってきたので早朝4時頃目が覚める。トイレに行ってきたらもう眠れない。
幸い朝は雨がほぼ止んでいた。
これをやりに来たんだ。そう座頭市のモノマネを。浴衣の裾をまくりあげて帯の中にちょっと押し込んで太ももまで露わにし、傘を杖代わりに地面をたたきつつ松代屋の前を盲人がそろそろと歩くように歩いた。
つまりこんな感じだ。Amazonプライムビデオで見た映像だがスクショが取れない仕掛けになっていたのでカメラで撮っておいたものだ。
ちょっと自撮りはいまいちだったが同じことができたので良しとしよう。
ちなみに前の日の雨で濡れていた傘を玄関先で開いて干しておいてくれた当主の心遣いに泣いた。
総合評価
とにかく普通のホテルでは味わえないおもてなし感がぱねえからふすまだけの仕切りにそれほど抵抗がなければ一度は泊まってみると良い。
うわべだけのおもてなしとはぜんぜん別次元のもてなしが待っていることを約束する。最高だった。
で嫁氏も行くまでは不安しかなさそうだったが泊り客が我々以外にいなかったというせいもあり絶賛の嵐でなんども「いや松代屋いいわあ」と連発していた。
ちなみに公式サイトもあるが阿部寛のサイトなみの速さだ。